Kさん(90歳)はつい最近までしっかりしていたおばあちゃんであった。隣には教員をしている息子夫婦が住んでいるが「若いもんと年寄りは生活が違うしなあ、それに自分で自分の事が出来るうちは、出来るだけ息子に世話をかけんようにせんとなあ」と言って、自分で煮炊きをし銭湯に行くという生活をずっと続けてきた。
Kさんがしっかりものなのは、若い時から働き者だったことと無縁ではなさそうである。7歳の時に母親が亡くなり子守奉公に出されてから、75歳で病院の掃除婦を辞めるまでKさんはずっと働いてきた。夫は酒飲みで女遊びをする人であったからKさんが必死になって働かなければ子供も育てられなかったのことであるが、その子供も戦後若死にしてしまった。今いる息子さんはお姉さんの子を養子に迎えたとかで、Kさんは病院の賄い婦、掃除婦をしながら、金沢の国立大学を卒業させている。賄い婦や掃除婦をしながら大学を出すことは並大抵のことではなく、Kさんは「おどれくそ、負けてたまるか」と歯を食いしばりながら頑張りぬいたという。ところが、このように働き者でしっかりものだったKさんもこの春ごろから認知症が目立つようになった。病院でもらった1週間の薬を2日ほどで飲んでしまったり、ワンピースを前後反対に着てみたり、お風呂に入れば自分のパンツをはいた上に他の人のパンツをはいて出てくるなど、認知症状が頻繁に見られるようになったが、不思議なことに、Kさんの認知症状は穏やかな状態のまま停止しており異常行動をとることはない。Kさんがデイサービスに来るようになって2年になるが、学校が休みのときは息子さんに送迎してもらっている。送ってもらったときはには「気をつけてお行きよ」と言い迎えに来てもらった時には「迎えに来てくれたん、ありがとう」と言い、手を引いてもらいながら家に戻っている。その姿は実に微笑ましく、Kさんを知るものにはKさんの息子への無条件の信頼がよく伝わってくる。
息子さんがあるとき、苦笑されながらこう言われた事がある。「淋しいだろうと思って、夜はお母さんのそばで寝るようにしているんですが、明け方にはいつも大布団が掛かっています。暑くてたまらんのですが、母とはありがたいものだと思います」と。
この雑誌より母親の一心に働く姿を見て育ち、母の無償の愛に手を合わし、認知症の母を優しく受容している息子さん。その息子を無条件に信頼しているKさん。そうした親子の信頼と愛がKさんの認知症状を穏やかなものにさせていると感じます。今年の夏は酷暑で熱帯夜が続くと思いますが、このような親子と知り合えたことは、私には何ものにも勝る清涼剤でした。
代表者プロフィール
向井 和郎 (むかい かずお) 昭和50年10月6日 鹿屋市生まれ |
【経歴】 平成10年9月
軽費老人ホームヴィラ城陽(京都府)生活相談員にて末期がんターミナルケア・終身型老人ホームの運営を行う 平成14年1月
城陽市立東部デイサービス(法人内移動)公募にて城陽市から委託事業を選定される 全国老人福祉大会にて「選ばれるデイサービスを目指して」事例発表 主任生活相談員 平成16年4月
デイサービスホワイティー設立京都府にて共同で民家改修型デイサービス設立 (祖母が脳梗塞にて入院し看病の為帰郷する) 平成16年9月
東串良町ルーピンの里主任介護支援専門員を行う 平成17年8月 |

